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もんを活用するテクニック

サービスといえば、最近、私は東京のデパートの食堂をちょっと見直している。特別なサービスがあるわけではない。
当たり前のことを当たり前にやっているだけなのだが、いま、こういうサービスが得がたくなっている。デパートの食堂には、これ見よがしの作り笑顔ではなく、控えめな笑顔がある。
盤慰無礼さがなくいかにも世話好きのおじさん、おばさんといった感じの人が、まじめにサービスしてくれる。ヒマなときでも、客のほうに注意を向けている。
私語がほとんどない。制服は相変わらず地味だが、誠実さがちゃんと伝わってくる。
なんだ、当たり前のことじゃないか、と思うなかれ。最近の飲食店、とくに流行りのレストランには、これとは逆の店のほうが圧倒的に多いのだ。

デパートの食堂では、女性の一人客や、年配の客、地方から出てきた客などが安心して食事をしているが、いま、こうした客層が安心して食事をできる場所が極端に減っている。彼らにとって、デパートの食堂は心から安らげる場所になっているのだ。
たとえば日本橋・T屋の食堂は、数あるデパートの食堂のなかでも、そのサービスの優秀さで知られるが、そのなかの一店『O』は、サービスといい味といい、デパートの食堂のなかで屈指の存在だろう。握りも旨いが、何より江戸前の見本のようなちらし寿司が、この店の実力を物語る。
なるほどデパートに入っている寿司屋では、カウンターで握りを食べながら一杯やるという常連の男性客より、テーブル席でちらしを注文する婦人客が多い。そういう客層に対して、けっして手を抜かず、きちんとしたちらしを出す。
従業員の応対も気持ちがいい。昭和30年からこの店で働いているという店長は、「カウンターに出ると客の食べ方に一言いいたくなるから、引っ込んでいることが多い」と笑うが、これも場所柄をわきまえた一種のサービスというべきか。
常連客だけを相手にした。敷居の高い寿司屋が多いなかで、『おけい鮨』は一流店の味を守りながら、それでいて誰もが安心して食べられる店というコンセプトを一貫して守っている。
寿司屋として希有の存在である。前に、新しくできた流行りの店は当たり前のサービスができない店が多いといったが、むろん例外もある。
たとえば東京・西麻布のフランス料理店『L』である。オーナーはHさんで、元ホテル西洋銀座でソムリエをしていた経歴の持ち主だが、私の知る限り、接客においてきめ細かい気配りができる人である。
たとえば、水を出すタイミングである。一般に、高級レストランでは水を出さない。

水がほしい客は「ミネラル」として注文する。ある時、「この手の料理を食べたあとは、絶対にのどが渇く」ということに気がつき、実際にその料理を出したあとに、黙って水を出してみたという。
すると、水を出された客は、誰もが美味しそうに水を飲む。つまり、サービスというのは、客の気持ちになってみると、いくらでも発見があるといえばいいだろうか。
いまでは、「ください」といわれる前に水を出すことが、彼の誇りだと思って気配りをおこたらない。またサービスが命といえば、ホテルを思い浮かべる人も多いはずだが、いま、ホテルのレストランでもっとも旨い料理と優れたホスピタリティを感じさせられるサービスができるのが、Rホテルである。
最近、私は、Rホテルの総料理長、Sさんの「50周年記念晩餐会」という催しに出席したが、このとき、Sシェフの笑顔と客をもてなす心、そして料理に一言添える温かさをあらためて感じることができた。このホテルのレストランはいつでもそうだが、このときも「温かいものは温かく、冷たいものは冷たく」という当たり前のサービスが徹底していた。
どんなに人数が多くても、サービスの基本はしっかりと守る。50年間、こうしたサービス精神を持ちつづけたSシェフを見ならうような責任者が増える事を望んでやまない。
Rホテル以外にも、T大阪など、優れたホスピタリティのホテルはいくつかある。ここ数年、ホテルは味もサービスも低落しつつあるのはほんとうに残念でならない。
専門店の場合、その主人ともなれば、仕入れから調理、サービスまで、すべてを自分の目と舌で勝負をする。気を抜けば即、店が衰退しかねないから、緊張感がある。
しかし、ホテルは、料理を作るという工程ひとつをとっても、何人もの料理人の手が加わる。仕入れ担当と調理担当は別人だし、同じ人間がひとつの担当をずっとつづけるということもない。
1年ごとに異動したりする。こうなると、いつも最高の状態の献立にこだわることができず、次に別の人が来ると思えば、いまのポジションで本気の汗を流す人が少なくなるのは当然だろう。
そして、本気で料理を作る人材がなかなか育たない。このような環境では、どうしても緊張感が薄れる。
ましてや、自分の勤めるホテルが「伝統ある一流ホテル」といわれるようだと、大方の客は料理も「超一流」と思ってくれると錯覚してしまう。ホテルや旅館の看板にあぐらをかいているうちに、しだいに味もサービスもダメになってくるのは当然の話で、ホテルや旅館では、どこも集団給食や工場生産のような味付けになっている。

どうもいまどきのホテルなどは、料理人もサラリーマン化してしまっているような気がしてならないのだ。ホテルのレストランか専門店かといえば、やはり私は単品で勝負している専門店に軍配をあげる。
寿司屋、蕎麦屋、うなぎ屋、天ぷら屋、おでん屋……。こうした店では、そこの主人の顔が見えたりして、客は安心しながら食べることができるし、その季節、その瞬間に、いちばん美味しいものを口にしているという実感がある。


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